音楽でまちおこし!Tシャツで応援する“ジャズフェス”開催秘話
真夏の太陽が輝く8月、JR錦糸町駅の周辺では、あちらこちらでジャズの音色が響き渡ります。
2010年から始まった「すみだストリートジャズフェスティバル」。今年で第8回目を迎え、来場者は約40会場すべてにおいて無料で音楽を楽しめます。その運営資金のひとつは、アーティストとコラボした「オリジナルTシャツ」の販売です。
今回、すみだストリートジャズフェスティバルの発起人でもあり、現在「Tシャツ物販委員会」の委員長である山田直大さんに、フェスの始まりやTシャツにまつわるエピソードなどをインタビューしました。
ジャズフェスティバルで墨田区を盛り上げ、地元産業を元気にしたい
―― 「すみだストリートジャズフェスティバル」のいきさつを教えてください。
当社は、両親が墨田区で長く続けてきた会社で、12年前に私が受け継ぎました。墨田区の移り変わりを考えたとき、もっと街を活性化しないと地元産業が元気にならないんじゃないか、というように考えるようになりまして。そこで、まちおこしの成功事例をくまなく調べたところ、ジャズフェスティバルが素人でも成功しやすいという結論に至ったんです。また、墨田区は1988年に「音楽都市」構想を発表していますので「これはいいね!」となりました。
―― 最初は何人で始められたのですか?
私と、当初から実行委員長を務める能(たくみ)と、私の姉の山田やすよです。実行委員会のメンバーは全員ボランティアで、現在は40人くらいです。
―― 初めての取り組みだったと思いますが、何か参考にされたイベントなどはあったのでしょうか?
能(たくみ)の実家が大阪の高槻にあり、そこでまちおこしを成功させた「高槻ジャズストリート」の実行委員会に連絡を取り、相談に乗っていただきながら進めました。話を進める中で、墨田区から助成金をいただける可能性が高いとなったのですが、最終的に条件が合わず白紙に。その当時は他に資金源が無く、ジャズフェスそのものを中止することもよぎりました。
でも、世界的に活躍するジャズ・トランペット奏者の日野皓正さんの日程を押さえることができていたので、「中止にするのはもったいない!だったら自分たちでやろうじゃないか!」と腹を決めたんです。
―― 高槻ジャズストリートさんのご協力は大きかったようですね。
高槻ジャズストリートさんの全面協力が無ければ、すみだストリートジャズフェスティバルの成功はあり得なかったですね。第3回目までは不足の機材や飲食で使う椅子やテーブルなどを大阪から運んでいただきました。
―― 運営資金はどのようにして調達されたのですか?
墨田区に本社を置く企業を訪問し、協賛金をお願いしました。ここは下町ですから、伝統を重んじる気風もあります。そのため、新しいことに構える方もいらっしゃいましたが、「よし!それなら応援するよ!」と趣旨に納得して快諾していただけました。
それから、高槻ジャズストリートさんがTシャツ販売や当日の飲食代、寄付金などで資金調達して成功されていたので、私たちもそれに習うことにしました。
“まちぐるみ”のイベントに成長。来場者、出演団体、ボランティアの数は右肩上がりに
―― ジャズフェスティバルの反響はいかがですか?
統計を取っているわけではないですが、来場者数が年々増えている実感はありますね。最初は演奏会場が20か所ほどで、場所を押さえることが大変でした。ですが、実績を積み上げることによって信頼していただけるようになり、現在は約40か所まで増え、東京スカイツリーの足元にも会場があります。出場団体数も右肩上がりで、今は400団体ほどです。
―― そうなるとボランティアの数もかなり必要ですね。
ボランティアの方々の力があってこそ、成り立っているイベントです。第1回目は2日間で約600人ほどだったのが、昨年(第7回目)では1,600人もの方々にお手伝いいただきました。神奈川、埼玉、千葉など遠方から来られたり、毎年ボランティアに参加してくださったりする方もいて、本当にありがたいです。
―― 錦糸町駅周辺では巡回バスも運行しているんですよね?まさに“まちぐるみ”のイベントですね。
京成バスさんと東武バスさんにご協力していただいて実現しています。バスの中でも参加バンドが演奏しますので、ジャズを聴きながら複数の会場を移動できて楽しいですよ。
すみだの街がアーティストTシャツで埋め尽くされる光景は圧巻!
―― 運営資金にもなるTシャツは毎年デザインが異なるようですが、どのようにしてアーティストに依頼しているのでしょう?
実行委員会メンバーたちの細いツテを頼りに、ようやくアーティストにたどり着くという感じでしょうか。依頼すると快く引き受けてくださる方ばかりで嬉しく思っています。
―― 毎年、Tシャツのデザインテーマはあるのでしょうか?
特にテーマは指定せず、アーティストの方に一任しています。ただ、みなさん、イベントの趣旨を理解してくださってデザインしてくれますね。過去のデザインには東京スカイツリーが描かれていたり、サックスを弾いている人の名前が墨田区の地名だったり、毎年とてもユニークです。
今年は水墨武人画師のこうじょう雅之さんが、サックスと刀を持った武士を描いてくれました。こうじょうさんは昨年のNHK大河ドラマ『真田丸』の公式グッズのポスターなど手がけられています。
―― Tシャツの反響はいかがですか?
おかげさまで好評です。当日、ボランティアには無償で配布しているのですが、このTシャツを楽しみに参加している方もいるようです。ご来場のお客さまの中にも、このTシャツを着て参加されている方が多くいらっしゃいますよ。開催期間中は、すみだの街がアーティストのデザインTシャツで埋め尽くされ、その光景は圧巻です。
元SPEEDのHITOEさんにデザインしていただいたときは、HITOEさんが当日来てくださり、大勢の人がTシャツを着ている様子を見て喜んでくれました。アーティストの方にとっても、自身のデザインで街を飾れるのは誇らしいことのようです。
―― 実行委員の皆さんにとって、Tシャツはどのような存在ですか?
当日、このTシャツを着ると気が引き締まりますね。「よし、やるぞ」といったように。また、同じTシャツを着ていると仲間意識や一体感が生まれますので、お客さまにもこちらから積極的に挨拶したり声をかけたりするようにしています。
もちろん、資金としての役目も果たしてくれていますので、そういう意味でも大切な存在です。
「楽しみ、ブレない」がまちおこし成功の秘訣!
―― まちおこしを長く続ける秘訣について教えてください。
自分たちがやりたいことに似た成功事例を研究し、その団体に協力をいただくと良いと思います。それと「楽しむこと」じゃないでしょうか。実行委員会メンバーが「楽しい」と感じるポイントは人それぞれ違っていて「音楽が好き」「イベントが好き」「仲間と関わることが好き」などさまざまですが、自分の好きな分野で関われるのは喜びにつながりますから。
あとは「会計が明朗」ということも重要でしょうね。この活動で誰も金銭的利益を得ていませんし、会計を公開し透明性を持たせています。だから続いているのだと思います。ただ続けていくだけではなく、この活動やイベントを次世代につなげていきたいですね。現在は、関西出身でこの墨田を居住地に選んだ大垣昌之が代表です。地元に住む人が、もっと関わっていけるようにしていきたいですね。
―― 完全ボランティアで続ける、その情熱はどこから来ているのでしょう?
実行委員長の能(たくみ)と私の2人は、当初から子どもたちにどういう社会を残せるか、ということを考えてきました。子どもたちが「この街を誇りに思う」と思ってもらえる社会をつくるためのまちおこし、という想いはブレないですね。それがあれば、運営もブレないのではないでしょうか。
音楽とTシャツで、等身大で文化を創る大人たちがいた
ボランティアの力を借りつつ、ビッグイベントを約40人の実行委員会で運営。そのことに対して「すごいですね」と率直な感想を述べると、「謙遜ではなく、偉くもなんともないんですよ」といった返事が。
「やれる人間が楽しみながらやる」。ただ、それだけと言いつつも、その内側には、良い社会を伝えようとする不動の想いがありました。
ぜひ今夏、粋な大人たちが等身大で創るすみだストリートジャズフェスティバルに出かけてみてはいかがでしょうか。今年は8月18日(金)19日(土)20日(日)に開催されます。すみだの街がTシャツで埋め尽くされる光景も生で見てみてくださいね。
Interviewer&Writer:佐藤美の
【取材協力】山田直大さん
地域活性プロデューサー(株式会社東京アート印刷所 代表取締役)
1970年東京都生まれ。大学卒業後、広告代理店に勤務、27歳でオーストラリアへ留学。帰国後、1997年より親の印刷会社へ就職し2008年より代表取締役。子どもの誕生をきっかけに「子どもに何を残せるか?」と考え、お金じゃない財産=「社会」を残したいという想いから2010年「すみだストリートジャズフェスティバル」を開催。全会場入場無料のボランティアイベントは「行政にお金を頼らない」「政治家を介入させない」「音楽プロデューサーを入れない」で話題になり、複数のメディアに取り上げられる。昨年まで7回を開催し来場者は10万人を超える。さまざまな地域活性を手掛け、大学や中学校などで講演活動も行う。■URL:http://sumida-jazz.jp/sj/