KATSU1が見据えるブレイキン(ブレイクダンス)の展望と、ブエノスアイレスユースオリンピックの見どころ。
冬のオリンピックが終わり、ちょっとした寂しさを覚えている方も多いのではないでしょうか。 しかし今年のオリンピックはこれで終わりではありません。今年で3回目を迎える、夏季ユースオリンピックがブエノスアイレスで10月6日より開催されます。
なんと、このブエノスアイレスユースオリンピックから正式種目となり注目を集めている競技があります、それがブレイキン(ブレイクダンス)です。
金メダルの期待が高まるこの競技を日本で管理するのは、公益社団法人日本ダンススポーツ連盟(JDSF)。このユースオリンピックのタイミング合わせてJDSFブレイクダンス部が発足されました。
今回はその部長を務めるブレイクダンス界の第一人者KATSU1氏に色々とお話を伺いました。
ブレイキンがユースオリンピック正式種目になったのをTwitterで知る
-JDSFブレイクダンス部長になった経緯をお聞かせください。
「最初は僕自身で手を挙げたわけではなく、色々な理由で僕になりました。 まず、ブレイキンが正式種目になったこと自体を一昨年の12月にTwitterで流れてきて知り、その時はウソだろう?!と思いました。その後世界中のBBOY※から、おいKATSU見たか?!みたいな連絡がたくさん来て、それで、あっ本当なんだなと。」
※BBOYとは本来、Break’n(ブレイクダンス)を踊る男性を指す言葉であるが、ヒップホップカルチャーが好きでファッションやライフスタイルなどに影響を受けている人も指す。女性の場合はBGIRLという。
なぜKATSU1氏がニュースで知ったことに驚いたかというと、KATSU1氏は世界のブレイキンシーンを盛り上げてきたブレイキン界において最重要人物の一人。そのため、このような重要な出来事を事前情報もなくニュースで知ったことが寝耳に水だったというわけです。
これまで数々のブレイキン世界大会で優勝経験があるKATSU1氏。
ヒップホップと関係ない団体からのオファー
写真はイメージです
「どこの団体がブレイキンを管理してるのか調べたところ、ヒップホップと全然関係がない『WDSF-世界ダンススポーツ連盟』という、主に10ダンスやソーシャルダンス※の普及活動を行っている団体でした。この団体はダンスをオリンピックの正式種目にしようと長年頑張っていて、今回たまたま10ダンスやソーシャルダンスと合わせて、ブレイキンも一緒に申請したらしいんです、そしたらなんとブレイキンだけが認可されたみたいです。そこで、ブレイキンに詳しい人を世界中で巻き込むことになり、その流れで僕に声がかかったという感じです。 」
※10ダンス・ソーシャルダンスとは、競技ダンス・社交ダンスのこと。
部屋に飾られたKATSU1氏たちが仲間と共に手がけるブランドのTシャツ。
KATSU1氏はこれまで様々なオリジナルTシャツを作ってきたという。KATSU1氏とオリジナルTシャツの関係は、そもそもダンスカルチャー自体がオリジナルTシャツをチームで着て踊るという文化で、意識しなくても勝手にオリジナルTシャツになっていたとのこと。
そんなヒップホップ、ダンスカルチャーをこよなく愛するKATSU1氏がヒップホップを知らない団体からのオファーに対する想いとは。
僕らの思うヒップホップを伝えてこようと思った
「初めはヒップホップを知らない、BBOYが関わっていない団体がブレイキンを取り仕切っているのはとんでもない事だと思ってました。WDSFの日本支部JDSFへ初めて顔合わせに行った時は、(ヒップホップを知らない彼らに)オレがヒップ ホップをしっかり伝えなくてはいけない!と思いました。そしたら、その気持ちに物凄く理解を示してくれて本当にビックリしました。結局彼らも10ダンスやソーシャルダンスというカルチャーをスポーツとして普及させようと頑張ってきた方々で、ある意味同じ経験をしていたんです。
そして、日本支部のブレイキンの専門家として手伝って欲しいとなったのですが、僕が勝手にやりますというのには違和感があり、近い先輩方に相談しに行きました。そしたら意外と(ブレイキンがオリンピック種目になることに対して)皆前向きで、多くの先輩方や仲間たちから『KATSUお前がやれよ』『お前しかいないよ』と言ってくれました。
何かしらのミスや不具合は起きるかもしれないけど皆の支えがあったので、やれるところまでやってみようと思いました。 」
とにかく苦労したルール作り
–部長としてどんなミッションがありましたか?
「『日本からルールを提案してみましょう』とJDSFからの提案があり、まずは早急に独自のルール作りをすることになりました。スポーツである以上、誰もが納得のいく公平性の高いルールが必要です。このルール作りが本当に大変でした(苦笑)。
僕ら的にはブレイキンの良さを活かすために、体操競技みたく『ヘッドスピントーマス』をしたら何点とかはしたくなかったんですね。でも基準点がないと公平にならないと言われました。初めは大揉めしましたけど、最終的にみんなの意図を組み込めたんじゃないかなとは思ってます。
100%納得はしませんでしたが、とりあえず提出してみました。結局、このルールは採用されませんでしたが、新たなルールもそれに近いように作られていました。ただ、これも完璧ではないのでこれからもきっと変わっていくでしょう。」
圧倒的にレベルが高い日本代表選手たち
–ブレイキン日本代表についてお聞かせください
「他の地区の選手のレベルも見ましたが、日本のレベルは本当に高いです。特にBGIRLは突出してますよ。 今はBBOY(男子)3名、BGIRL(女子)2名が代表候補として残っています。
5月20日に最終予選が日本の川崎市のカルッツかわさきで開催されます。
ここではどの国がオリンピック本戦に出られるか決定します。現在BBOY3名BGIRL2名で残っている日本代表もBBOY1名、BGIRL1名にまで最終的に絞られます。そういった意味でも目が離せない予選となります。チケットは春くらいから販売されるので、是非観に来てください。 」
チケットの販売情報はJDSFのホームページまたはKATSU1氏のSNSを要チェック!
【追記】
いよいよチケットの販売が開始されました!
くわしくBREAKING for GoldのHPからご確認ください。
続いて2018年5月の最終予選に残った日本代表選手5名それぞれの特長を伺いました。今最も熱い18歳未満のブレイキン・ダンサーたちの踊りはもちろん、彼らが来ている個性あふれるTシャツにも要注目です。
Shigekix(シゲキックス-半井重幸)
一言でいうと「全部やっちゃう」。一般的にはパワー系とかスタイル系とかに寄るけど、彼は上手く全部やっちゃいますね。そして、なによりも爆発力があります。
RIKU(リク-川元陸)
彼はとにかく勢いがすごいです。そしてド直、小細工せず真っ向勝負でいくタイプのダンサーです。
Shoya(ショウヤ-金森翔也)
可動範囲域がすごい。難しい技も簡単に見える。例えばヘッドスピントーマスでも、アレ簡単そうじゃね?と思ってしまうくらい。僕らとかは勢いつけないと出来ないような技もふわーんふわーんと(いい意味で)遅くやりますね。
Ram(ラム-河合来夢)
暴走列車。男子顔負けのパワフルなダンスが特長です。
Uruha(ウルハ-川崎麗)
彼女はスタイリッシュな踊りをしますね。見てると段々と引き込まれていき、不思議〜ってなりますね。
「5月20日の最終予選は、神奈川県川崎市の『カルッツかわさき』で開催予定です。お近くの方は是非直接、日本代表の応援や、世界中からやってくるハイレベルな技を堪能してみてはいかがでしょうか。来られない方も、テレビ放送を予定しているそうなのでチェックしてみてください。 」
ブレイキンがより広まっていく上での課題とは
–ブレイキンが広まってく上での、現状やこれからの課題を教えてください。
「今回ユースオリンピックの正式種目になって嬉しい半面、まだまだ多くの課題や懸念を抱えています。例えば、これまでブレイキンはフリースタイルを大切にしてきて、カッコよければ何でもアリな世界だったけど、ルールという型にハメられてつまらなくなってしまうのではないか、ダンスが好きなら誰でも一緒に楽しめるのが我々のカルチャーの醍醐味だけど、スポーツになることによって、パラリンピックや男女別々など縦割りになってしまうことなどに対して賛否があります。
他にもたくさんあるかと思いますが、カルチャーが発展していく上で、乗り越えなきゃいけない、理解を広めなければいけない問題があります。 」
貧富の差に関係なくダンスを楽しめる世界へ
HIPHOPカルチャーを通して貧困地域で育つ子どもたちを支援するKAPAYAPAAN PROJECTにも参加しているKATSU1氏。
「ダンスの良いところは、音楽さえあれば誰でもその場で楽しむ事ができます。しかしスポーツ競技となると、遠征費などの活動にかかるお金は基本的に選手の実費となります。ダンスが好きで上手な子でもお金がないと大会に出られないという現実があります。これは僕達からすると本望ではありません。また、音楽を使った競技なので、音楽の著作権料問題などでお金がかかったりします。誰でも公平に楽しめ、トップを目指せるようにカルチャーの発展をしていくにはこのあたりの仕組みも乗り越えなくてはなりません。僕がやりたいことは、貧しい地域の子たちも別け隔てなく世界で活躍できる環境を作ることです。そのためにコツコツとシーンを盛り上げて行きたいと思います。 」
ユースオリンピックの正式種目になり、ますます盛り上がりを見せるブレイキン。このような大きな舞台の裏ではカルチャーを支えている方々がいて、そこには大きな想いが乗っかっています。
まずブエノスアイレスユースオリンピックの最終予選となる2018年5月20日「WDSF世界ユースブレイキン選手権大会」を是非注目してみてください。
JDSFホームページ
ブエノスアイレス ユースオリンピック最終予選情報
■チケット購入(イープラス)
観戦チケットは2,000円(税込)/中学生以下は無料
→ご購入はコチラ
■大会概要■
●大会名称:
WDSF世界ユースブレイキン選手権(英語名称:WDSF World Youth Breaking Championships)
●開催日
2018年5月20日(日)
10:00 開場
11:00 Phase1開始
13:00 Phase2 開始
18:00 Phase3(最終トーナメント)開始
●開催場所
カルッツかわさき(川崎市スポーツ・文化総合センター)
〒210-0011 神奈川県川崎市川崎区富士見1丁目1−4
●開催規模
世界34の国と地域から、88名が参加
男女各9名がブエノスアイレスユースオリンピック出場権を獲得(各国男女各1名までが上限)
●主催
JDSF(公益社団法人日本ダンススポーツ連盟)
●後援
外務省/スポーツ庁/(公財)日本スポーツ協会/(公財)日本オリンピック委員会/�川崎商工会議所/(一社)川崎市観光協会/(一社)川崎市商店街連合会/(公財)川崎市スポーツ協会/(公財)川崎市国際交流協会/(公財)川崎市文化財団/ 毎日新聞社
カシオ計算機株式会社/株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント/JOYFIT/西川産業株式会社
●特別協力
川崎市
【取材協力】KATSU1
JDSFブレイクダンス部 部長
日本のみならず海外大会でも多数結果を残し、日本シーンはもちろんのこと世界のシーンでも多大な影響を与え続けている。 日本ブレイクダンスシーンにおいて数多くの功績を残し、現在現役の傍、若者の育成も精力的に行い、審査員としても世界中に招待されている。